神島 鳥羽市 三重県
歌島は人口千四百、周囲一里に充たない小島である。歌島に眺めのもっとも美しい場所が二つある。一つは島の頂きちかく、北西にむかって建てられた八代神社である。 ここからは、島がその湾□に位している伊勢海の周辺が隈なく見える。北には知多半島が迫り、東から北へ渥美半島が延びている。西には宇治山田から津の四日市にいたる海岸線が隠見している。眺めのもっとも美しいもう一つの場所は、島の東山の頂きに近い燈台である。燈台の立っている断崖の下には、伊良湖水道の海流の響きが絶えなかった。伊勢海と太平洋をつなぐこの狭窄な海門は、風のある日には、いくつもの渦を巻いた。水道を隔てて、渥美半島の端が迫っており、その石の多い荒涼とした波打際に、伊良湖崎の小さな無人の燈台が立っていた。 《新潮文庫『潮騒』P五、P六より引用》   鳥羽ウォーキングマップ