遠江国守桜井王の天皇への歌一首 九月之其始雁乃使爾毛念心者可聞来奴鴨 九月のその初雁の使によって、私のお慕い申し上げる気持ちは、天皇のお耳にとどかないものでしようか。 天皇よりの返歌一首 大乃浦之其長濱爾縁流浪寛公乎念比日 大の浦の長々とした水際に寄せる波のように、心ゆったりとおおらかな気持ちであなたのことを考えているこのごろです。内容は互いに相手を思い合う心が、恋歌のように歌われている。桜井王の在任期間(729〜738)を考えると歌の相手は、「国分寺建立の詔」を出した聖武天皇であった可能性か高い。奈良時代に、遠江国府の近くに広がっていた入江(大の浦‐現今之浦)の岸に寄せる波に思いが重ねられており、当時の「大の浦」の情景が思い浮かばれる。 |