時々の花は咲けども何すれそ 母とふ花の咲き出来ずけむ 右一首防人山名郡丈部真磨
 訳 季節季節に花は咲くのに、どうして母という花は咲かないのだろうか。咲けば手で折ってでも持ってきたのに。
 
遠江白羽の磯と贄の浦と あひてしあらぱ言も通はむ  右一首同郡丈部川相
 訳 遠江の白羽の磯と贄の浦とのように、ここと故郷とが向かいあっているのなら、言葉も通じあうだろうに。遠くへだたっていては思いがつのるぱかりだ。

この二首の歌は、日本最古の歌集となります『万葉集』に載っている防人の歌です。防人は、古代、中国や韓国からの侵入を防ぐために北部九州に配置された兵士のことで、主に東国から徴兵されました。防人の歌の多くは、父母や妻との別れを悲しむ農民の率直な気持ちが歌われています。この歌碑の防人は山名郡の丈部真麿と丈部川相で、山名郡は現在の袋井市域にあたる古代の行政区となります。丈部川相は、名前が現在の袋井市川井の地名と同名となることから、川井地区の出身者と考えられます。 平成12年8月   袋井市教育委員会
万葉歌碑(袋井中学校内) 川井 袋井市 静岡県