監的硝 神島 鳥羽市 三重県
昭和4年に旧陸軍が伊良湖から撃つ大砲の試射弾の着弾点を監視した施設。2階建ての鉄筋コンクリートの建物で、対岸の渥美半島伊良湖岬、伊勢湾までも一望できる景観はすばらしく、空気が澄んでいる時は富士山を見ることができます。この場所は「潮騒」のクライマックスであり、嵐の日に主人公新治と初江がお互いの愛を確かめ合うシーンに登場します。

少女は二三歩退いた。出口はなかった。コンクリートの煤けた壁が少女の背中にさわった。「初江!」と若者が叫んだ。「その火を飛び越して来い。その火を飛び越してきたら」 少女は息せいてはいるが、清らかな弾んだ声で言った。裸の若者は躊躇しなかった。爪先に弾みをつけて、彼の炎に映えた体は、火の中へまっしぐらに飛び込んだ。次ぎの刹那にその体は少女のすぐ前にあった。彼の胸は乳房に軽く触れた。『この弾力だ。前に赤いセエタアの下に俺が想像したのはこの弾力だ』と若者は感動して思った。二人は抱き合った。少女が先に柔らかく倒れた。「松葉が痛うて」  
新潮文庫 『潮騒』P74、75 より引用