伊豆の踊子文学碑 湯ケ野 河津町 賀茂郡 静岡県
湯が野までは河津川の渓谷に沿うて三里余りの下りだった。峠をこえてからは、山や空の色までが南国らしく感じられた。私と男とは絶えず話し続けて、すっかり親しくなった。荻乗や梨本なぞの小さい村里を過ぎて、湯が野の藁屋根が麓に見えるようになった頃、私は下田まで一緒に旅をしたいと思い切っていった。 川端康成
『伊豆の踊子』は、ノーベル文学賞を受賞された川端康成の代表作であります。康成は孤独な学生生活の中で、一人、傷心の伊豆の旅に出て、天城峠の茶店で娘を連れた旅芸人の一行に出会い、共に連れ立ち、幾重にもつづれ織りなす天城路の美しさと、初々しい踊子の明るさ、清らかさに心を引かれていく、「伊豆の踊子」のほのかなロマンは天城路の描写と共に、名作と言われるゆえんであります。大正七年十一月のことで二日、三日、四日とこの地に宿泊したときのことが物語の中心になっております。「伊豆はあらゆる風景の画廊である」 −と康成はこよなく伊豆を愛されました。康成は明治三十二年六月大阪に生まれ、昭和四十七年四月他界、七十二歳でした。世界的な文豪としてその名声は不滅であります。  川端康成文学碑保存会