昔、信濃の兵左衛門と、甲賀の太郎右衛門は親しい友人でありました。太郎右衛門には、十七歳になるお菊という美しい娘がおり、甲賀小町といわれておりました。兵左衛門は、これを聞くと早速息子の嫁に欲しいといいました。話はうまくまとまり、春三月の佳き日を選び、はるばる信濃へお輿入れとなりました。 準備万端調えて、いよいよ出発となり、日吉の溜に差しかかりました。突然、石橋の上にかわいい少女が行く手をさえぎり、「この橋を通ってはなりませぬ。ただいま、龍神様が大事な会合をなさっておいでです。お邪魔をされると崇りがあります。」 行列は立ち止まりました。
「天下の大道である。邪魔をするな!」 と怒鳴ってはみたが、少女は立ちはだかって通してくれません。 太郎右衛門は怒って太刀を振りかざし、少女を真二つに斬りつけました。これは不思議、少女の姿はたちまち消えうせ、橋の上には金欄の丸帯だけが残っていました。太郎右衛門は、これはよき賜り物と、長持に納めて出発しました。ところが大変です。花嫁を乗せた駕籠が軽いではありませんか。不思議に思って中をのぞいてみると、花嫁の姿は、影も形もありませんでした。一同はびっくり仰天、腰もぬかさんばかりで、近くの竹藪へ荷物を投げ捨てて、命からから逃げ帰りました。
 その後、この石橋を嫁取り橋といって、お嫁入りの行列は、絶対に通ってはならないと言い伝えられ、守られてきました。
   建部日吉町・建史会・八日市市うるおいのある街づくり推進協議会
吉住池・嫁取り橋伝説 建部日吉町 東近江市 旧御代参街道