旧道(左) 猿ヶ京温泉 みなかみ町 利根郡 群馬県
旧三国街道猿沢の上り    10月22日。
今日もよく晴れてゐた。嬬恋以来、實によく晴れて呉れるのだ。 中略   今日これから行かうとしてゐるのは、沼田から二里ほど上、月夜野橋といふ橋の近くで利根川に落ちて来てゐる赤谷川の源流の方に入って見度いためであった。その殆んどつめになった処に法師温泉はある筈である。  中略   吹路といふ急坂を登り切った頃から日は漸く暮れかけた。風の寒い山腹をひた急ぎに急いでゐると、をりをり路ばたの畑で稗や栗を刈ってゐる人を見た。この邊では斯ういふものしか出来ぬのださうである。従って百姓たちの常食も大概これに限られてゐるといふ。かすかな夕日を受けて咲いてゐる煙草の花も眼についた。 小走りに走って急いだのであったが、終に全く暮れてしまった。 山の中の一Iすぢ路を三人引っ添うて這ふ様にして辿った。そして、峰々の上のタ空に星が輝き、相迫った挟間の奥の闇の深い中に温泉宿の灯影を見出した時は、三人は思はず大きな声を上げたのであった。   後略   この紀行文は大正11年10月22日若山牧水が沼田市鳴瀧屋旅館に宿泊した後、猿ケ京を経、法師温泉までを綴った「みなかみ紀行」の一節である。 昔の風情がそのままに残る旧三国街道猿沢の小径を散策してみて下さい。水車小屋の水車の音と猿沢の瀬音が心に浸み入る桃源郷の猿沢の上りです。 散策道延長800m 所要時間20分