熊野の長ふじ 行興寺 池田 磐田市 静岡県
一、当寺は、今より八百年の昔、延久元年の創建にて、謡曲で有名な、熊野御前の旧跡であります。
一、当寺には、熊野御前の守本尊厄除十一面観世音(恵心僧都御作)熊野御前とその母、侍女朝顔の墓墳がそのまま昔を物語っております。
一、毎年四月二十九日より五月五日まで熊野御前の例祭をとり行います。
一、境内には、その昔、熊野御前が堂側に植えて愛育された藤であると称される紫房五尺以上に垂るる五百坪に余る藤があり、昭和七年文化庁より「熊野の長藤」として天然記念物に指定されました。見頃は、年により相違がありますが平年四月下旬から五月上旬であります。
一、謡曲「熊野」奉納の方には、寺則により謡曲奉納の証印を押印いたします。  右 旧跡 熊野寺
謡曲「熊野」と行興寺
 遠江国池田の宿の長熊野は、平宗盛(清盛の次男)の寵愛を受け、京都清水の桜見物に出掛けます。熊野は病母から届いた手紙で見舞に赴きたいと思い、宗盛に暇を乞いましたが聞き入れられず、やむなく宗盛に同行しました。花の下の酒宴が始まり舞を舞った熊野は、俄の村雨に散る花に寄せて故郷の病母を気遣い
 いかにせん 都の春も惜しけれど 馴れし東の花や散るらん 
と和歌を泳んだのを見て宗盛も哀れに思い暇を与えたのです。熊野はこれも清水観音のご利生と喜んで故郷へ帰って行きました。熊野は藤の花をこよなく愛し、行興寺本堂側に熊野が植えたと伝えられる老木あり「熊野の長フジ」と称せられています。謡曲史跡保存会