横山利一文学碑 野畔 湯ヶ島 伊豆市 静岡県
寝園
そのうちに、一度遠くへ去った犬の團塊が山毛欅(ぶな)の森の端を迂廻して、前面の森の頂上ヘ迫って来た。数羽の山鳥が勢ひ良く飛び立つと、奈奈江の頭の上を越えていった。と、一疋の首毛(くび)を逆立てた猪が、圓々と栗のやうに膨らんで、蔓草の上から飛び出て来た。続いて、瀧のやうに数十疋の犬の群れが猪の後から流れで来た。猪は大草を乗り越え踏み越えしながら、道まで出ると一寸停ち止つて左右を見た。その隙に乗じて、数疋の犬が猪の首と股とへ飛びついた。が、猪は後足で蹴上げると、忽ち犬は逆さまに高く蹴ね上つで投げ出された。猪は再び急速な勢ひで、陽の光りとは反対な奥の方へ廻らうとした。  横山利一